転位を動きにくくすれば、金属材料の強度は上がります。そもそも金属材料の強度は、転位が動きやすいか動きにくいかで決まります。転位とは金属材料が変形する際に発生する欠陥で、転位が動くことによって金属等は外力に対して破壊せずに変形する塑性変形(変形を引き起こしている荷重を取り除いた後元に戻らずに残っている変形のこと)を起こします。
転位を動きにくくるす方法はいくつかあります(下記参照。なお、下記の方法が全てではありません。)。ひとつの金属材料に対して、下記の金属材料の強度の強化方法を、複合的に付与している場合が多いです。
①固溶強化→溶質原子を母相に固溶させて固溶体合金とすることによって得られる強化法で、障害物は溶質原子1個1個、または転位の周囲に雰囲気を作った複数の溶質原子です。固溶体合金を作ることによって、純金属よりも顕著に大きな臨界分解せん断応力を持たせることができます。
②析出強化→高温では単相、低温では2相となる合金系を用いて、「溶体化処理」「焼入れ」「時効」という熱処理を経て母相中に微細な析出物を分散させて得られる強化法です。
③加工強化→圧延などによって加工ひずみを導入します。金属を塑性加工すると転位や原子空孔、積層欠陥などの欠陥が大量に発生し、転位が絡まり、結晶の周期性が乱れることで転位が動きにくくなります。
④結晶粒微細化強化→加工熱処理による再結晶で結晶粒を微細化すると、粒界が増大します。粒界は粒内に比べて転位が動きにくいので強度が上がります。基本的に組成を変えることなく強化できることからリサイクル性に富んだ強化法として注目されています。他の強化法に比べれば、強度増加に伴う延性や靭性低下が小さい強化法としても知られ、材料的にも魅力的な強化法です。
しかし、結晶粒微細化強化を効果的に発揮させるには、結晶粒径を1 ミクロン以下に超微細化する必要がありサブミクロンあるいはナノレベルでの組織制御が必須となります。